彼女たちが帰ってきた
75回目の終戦記念日、大阪は酷暑だった。高温多湿の風が体にまとわりつき、不快感さえ感じる。
それでもヤンマースタジアム長居に向かう足取りは軽い。トップチーム、U-23に続き、ようやくなでしこリーグ1部、セレッソ大阪堺レディース(以下、堺レディース)のホーム有観客試合がおこなわれるのだ、うれしくないわけがない。
堺レディースはなでしこリーグ1部の他チームに比べ異色な存在だ。
2013年、チャレンジリーグ(女子3部リーグ)に参戦してから選手の入れ替わりがほとんどなく、現在所属している選手もほぼ全員が下部組織育ち。平均年齢は若いが、長年「同じ釜の飯」を食べてきただけあり、組織力は他のチームを上回る。
1部リーグ参戦は2018年以来2度目となるが、最下位に沈んだ2018年とは違い、今季は開幕から4連勝、リーグ首位に立っていた。ヤンマースタジアム長居のピッチに登場した彼女たちはどこか誇らしげに見えた。
女子サッカーの現実
彼女たちが試合前練習を開始したのは16時半のこと、試合開始は17時半となっていた。
夕刻とはいえ酷暑のただ中、決してプレーしやすい環境ではない。それでも、女子リーグの中では恵まれていると言えた。女子サッカーの試合はどのカテゴリーでも劣悪な環境でおこなわれており、夏場の13時、15時キックオフということも珍しくない。
また、なでしこリーグ1部チームの選手であってもプロ契約を結ばれるのはごく少数、高校や大学卒業後に引退する者がほとんどだ。そんな環境でもベストを尽くそうとする彼女たちのひたむきな姿は、観る者の心を動かすに十分なエネルギーを持っている。
されど、拍手は止まず
試合は残念ながら、これ以上ないほどの完敗だった。1-10、負けん気の強い選手たちですら下を向き疲れ切っていた。
それでも、堺レディースへの応援が止むことはなかった。本当なら「がんばれ」「負けるな」と声を枯らすところだが、コロナ禍にあっては拍手を送るしかない。手がはれるほどの拍手、スタジアムの屋根が震えるほどの拍手が起こる。
堺レディースのサポーターはチームとは真逆で高齢の男性が多い。子や孫を見るようなスタイルで、のんびりとしているのがもっぱらだ。その初老たちが、しわだらけの手を叩き続けた。選手たちの気持ちを切らせないために、戦えるように……。
もう一度書く、試合は完敗だった。けれど553人の観客は応援を続け、試合終了後も愚痴一つこぼさず帰路についていった。
これも他のチームと違う点かもしれない。若い選手たちの揺れ動くメンタルを、海千山千の老獪なサポーターたちが支える。
ああ、これだ、この空気だ。
セレッソ大阪堺レディースが、やっと戻ってきてくれた。
ありがとう。
写真・文:牧落連