9月5日(土)の17時50分ごろ、ヤンマースタジアム長居のコンコースは試合ができるかどうか話し合うサポーター達であふれていた。スタジアムの外は台風10号によってもたらされた豪雨と強風が猛威を振るい、雷鳴も止むことがない。
ヤンマースタジアム長居のメイン、バックスタンドの上層と南北ゴール裏のごく一部には立体トラス構造の屋根がついているが、各スタンドの下層とゴール裏の殆どはポンチョがないと濡れネズミになってしまう露天だ。屋根がある座席でも風が吹きつけ、体温がどんどん奪われていく。お世辞にも「観戦日和」とは言えない状態だった。
「浦和レッズ戦の試合開始時刻を30分繰り下げ、19時33分とします。」
というアナウンスを聞いた時には、試合が観られるという喜びと、事故が起こるのではないかという不安が筆者の心の中で入り混じっていた。
8年前の悲劇
ヤンマースタジアム長居が建つ長居公園では、忘れてはならない事故が起こっている。有名アーティストが集うコンサートが催された2012年8月、入場を待っていた女性2人が落雷のために命を落としたのだ。
そしてその2年後の2014年、クラブの育成・普及部門を受け持つ「一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ」を中心とした「長居公園スポーツの森プロジェクトグループ」が長居公園の指定管理者となった。長居公園全体をセレッソカラーに染め上げることが可能となった一方、事故が起こった際の責任も問われることになったのである。
もし再び落雷事故が起これば、セレッソ大阪は過去の教訓を生かせなかったクラブというレッテルを貼られてしまう。そのリスクを踏まえてなお、試合は予定通りおこなわれ、開始時刻の繰り下げもわずか30分と決定された。セレッソのことをよくよく知っている人間でなければ無茶無謀と非難するところだ。
確信があったればこそ
実は、「長居公園スポーツの森プロジェクトグループ」は長居公園の指定管理者となるや気象情報会社と提携し、気象状況を随時確認できるようスキームを組んでいた。荒天の可能性がある場合は気象情報データを取り寄せ、試合中止や開始時刻の変更をギリギリまで見極められるようになっていたのだ。
今回も気象情報会社の読み通りなのか、選手がピッチに現れた18時半ごろには雨や落雷は嘘のように収まってしまった。心配性の筆者の不安は杞憂となったわけだ。
さらに試合自体も、30分待っていて正解だったと思わせる完勝だった。
キム・ジンヒョン、ヨニッチ、瀬古らによって構築された組織的な守備と、清武、柿谷、坂元、都倉らが作り出す創造的な攻撃が浦和を圧倒、アディショナルタイムにはJ1初出場となる藤尾の初ゴールまで飛び出し、3-0という素晴らしい結果がもたらされた。
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試合開始時刻をギリギリまで思案したクラブ、突然の予定変更にも集中を切らさなかったチーム、そして文字通り、雨が降ろうがチームを鼓舞したいと詰めかけたサポーターが共闘した結果もたらされた勝利と言えよう。
もちろん、雨の心配がある場合はサポーター個々人でポンチョを購入するなどして対策を立てなければいけない。だが、こと試合開始の是非に関しては、セレッソの判断にゆだねて間違いはないようだ。
写真・文:牧落連