あの暴れん坊が、セレッソに帰ってきた
2001年、長崎国見高校からやって来た大久保嘉人は、良く言えば「暴れん坊」、悪く言えば「悪童」だった。南野拓実(現リバプール)や瀬古歩夢など足元にも及ばぬ傍若無人さで、スポーツ紙やネットでニュースに取り上げられるたびに頭を抱えたものだった。
ルーキーイヤーである2001年には、当時日本代表だった選手に「アンタが代表なら、代表もたかが知れているな。」と言い放って頭突きを食らった。その後も審判に「金もらってんだろ!」と言ってカードをもらい、「有名女優の○○さんがスタジアムに来ますが……」とコメントを求められた時には「ああ、オバサンには興味ないので。」と言い放つ、筆者が知る限り最高のトラブルメーカーだった。
メディアが面白おかしく脚色している部分を差し引いたとしても、カードコレクターであったことに変わりはない。
そんな嘉人がセレッソに帰ってきた、実に15年ぶりの復帰である。開幕戦がおこなわれた2021年2月27日時点でJ1リーグ得点王を3回獲得、通算ゴール数でも1位を誇るストライカーであり、実績は申し分ないものだった。
だが、嘉人はもう38歳。身体能力のピークはとっくの昔に過ぎ去り、残されているのはテクニックと経験だけである。私が知る限り移籍を歓迎しているサポーターは少なく、あまり期待されてはいなかった。様々なクラブを渡り歩きながらチャンスをつかめずにいた嘉人自身も、今年は背水の陣と覚悟していただろう。
夫として、父として、選手として
開幕戦、桜色のユニフォームでキックオフを待つ嘉人は15年前とは違うオーラをまとっていた。失うものなどない猛々しい青年は、結婚し、子をもうけ、一家を守る父としてそこにいた。自分と、自分の活躍を信じて待つ家族のために、ただ静かにたたずんでいた。
試合序盤は柏に押されていて、なかなかボールが来ない展開になった。そんな中でも嘉人は冷静にチャンスを待ち、ディフェンスラインの裏をとろうと駆け引きをし続けていた。
たとえ地味でも、チームに貢献できるプレーをし続ける姿は、中年男性である筆者の心を打った。努力はいつか報われる、なんてことは言わないけれど、努力しなければ報われないのが仕事というものだ。
流れを変え、好機に輝く
すると悪童の改心(失礼)に勝利の女神がほほえむ。
前半35分、嘉人は相手の裏をとることに成功したのだ。マッチアップしていた上島拓巳がたまらずファウル、一発レッドで退場となった。レッドカードで辛酸をなめていた選手が相手を退場させるなんて……!スタジアムは拍手喝采に包まれた。
選手が退場して数的不利になったチームは、その後しばらくの間混乱状態になることが多い。誰を入れてチームのバランスをとるのか、ガチガチに引くのか、好機はキッチリ攻めるのか、意思統一が難しいからだ。
そして、その瞬間を見逃さなかったのも嘉人だった。
相手ゴール前の混戦からボールは右サイドの松田陸に渡る。彼が上げた最高のクロスに、嘉人。誰よりも早く、誰よりも正確にクロスに合わせ、ヘッドでゴール隅に叩き込む。
セレッソの選手としては2006年11月11日のJリーグディビジョン1第30節、ホーム磐田戦以来、5222日ぶりのゴールだった。
中年の星になってくれ
試合は、坂元達裕ダメ押しゴールも加わり2-0の完勝に終わった。丸橋祐介の「神の手」、相手選手の退場、そして嘉人のゴール、スコア以上に中身の詰まった開幕戦だった。
試合の戦術的な解説はAkiさんの『セレッソ大阪を分析するブログ』をご覧いただくとして、私は違う切り口から試合を伝えていきたい。
そしてできれば、セレッソの活躍を、“中年の星”大久保嘉人の活躍を今シーズンもたくさん綴っていければと願う。
15年ぶりの復帰弾。
そして勝利!!
最高!!#yoshito13 pic.twitter.com/KKOVh5AzBM— 大久保嘉人 (@Okubonbon13) February 28, 2021
とりあえず、お帰り、嘉人。
写真:牧落連・ヤマ(ps) / 文:牧落連