近年Jリーグでは、プロも顔負けの本格的なカメラを持つサポーターが増えてきた。セレッソ大阪も例外ではなく、女性サポーターが推しの選手を撮るために自分の腕より太いレンズを構えているのを見て仰天したこともある。
今回はそんな“撮りサポ”の元祖、セレッソ大阪を撮り続けるGOING!さん(@GOING_CEREZO)にインタビュー。撮りサポの喜びや苦労についてたっぷりと語ってもらった。
ドイツで生まれた「試合を撮りたい」という気持ち
―まずは撮りサポになったきっかけを教えてください。
直接のきっかけは2006年のドイツW杯だったと思います。1998年ごろからセレッソを応援し始めてサッカーにハマったんですが、そこで運良くドイツW杯を現地で観る機会に巡りあえたんですね。せっかくW杯を観るんだから現地の様子を写真に撮っておこうと小さなデジカメを買ったのが最初でした。
ドイツの風景やスタジアムの近くの雰囲気を撮っていると、そのうち「やっぱり試合も撮りたい」という欲求が出てきました。けど、小さなデジカメだと限界があって……その時は最後までいい写真は撮れずじまいでした。
帰国してからも苦い思いがずっと心に残ったままで、やっぱり本格的な機材で試合を撮ろうと一眼レフカメラと望遠レンズを買ったのが2008年のことです。以来、サッカー観戦の際はカメラを持っていくようになりました。
―最初がデジカメというのは意外でした。てっきり写真関係の仕事でもされているのかと。
ごく普通のアマチュアカメラマンですよ(笑)なので、どう設定すればどう撮れるのかも試行錯誤の繰り返しでした。失敗したこともたくさんあります。
―GOING!さんが失敗するなんて想像つかないですね。どの写真も綺麗なので……。
そんなことはありません(笑)失敗を数えだしたらキリがないです。
例えば写真を撮り始めた頃、昼の試合と夜の試合ではカメラの設定を変えなければいけないのをすっかり忘れて夕方キックオフの試合を撮ったことがあったんです。
前半は昼間の設定でバッチリ撮れてたんですけど、後半、日没しても昼間の設定のままで撮影してしまって、家でチェックするとどの選手もブレブレの状態になってました。芸術的な仕上がりと言えば聞こえはいいですけど、これも苦い思い出です。
けど、そういう失敗が糧になって少しずつ自分なりの撮り方ができるようになりました。失敗は成功の母ですね(笑)
撮りサポならではの喜びと苦労
―では、次の話題に移りましょう。撮りサポならではの楽しみや苦しみみたいなものってあるんでしょうか?
それはあると思います。今はSNSという便利なツールがあるので、カメラとスマホがあればたくさんの人に情報を発信できるようになりました。ネット中継、テレビ中継では伝えられないスタジアム観戦の楽しさをすぐに多くの方々に知ってもらえるのは撮りサポならではの喜びだと思います。
選手の方々にSNSなどで写真を使っていただいたときも格別ですね。ユースや女子チーム(セレッソ大阪堺レディース、ガールズ)はまだまだ取り上げられる機会が少ないので、選手それぞれがアカウントを持っていることが多いんですけど、アイコンやヘッダー画像が自分の写真だったりするとありがたい気持ちになります。
あと今はコロナ禍で禁止になっていますが、練習場での撮影も楽しいです。日ごろ見られない選手の表情を撮るのも醍醐味ですね。
苦労というとやはり……機材費ですね。試合を撮り始めた頃はまだデジタル一眼レフカメラは高級品でした。新発売だったNikon D300が20万円程度、レンズもテレ端(レンズの最大望遠距離、数字が大きいほど遠くのものが撮影できる)300mmのAF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-EDが5万前後、予備のバッテリーやデータを保存するフラッシュメモリを含めると25~30万円はかかった記憶があります。
しかも、技術はどんどん発達していきます。新しいカメラやレンズの方が写りが良いので、今でもやりくりしながら機材費を捻出しています。
―GOING!さんの美しい写真は、確かな技術と出費の上に成り立っていると?
技術はわずかです。ほとんどがカメラとレンズのおかげだと思いますよ(笑)ただ、いい機材ってどうしても大きく、重くなるんです。今使っているNikon D5 XQD-TypeとAF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR、AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR、AI AF Nikkor 24mm f/2.8Dは合わせて5kg以上になります。それを背負ってスタジアムに向かうのも大変ですね。
それに、そこまで頑張っても上手く撮れないときがあります。「いい写真が撮れたかも」と思っても、後でチェックしてみると選手が変顔だったり。そういうのって申し訳ない気がして使えません。一試合で4,000枚くらい撮りますが、納得できるものは50枚に1枚あるかないかです。
遠征は波乱の連続!?GOING!さんが遭遇した「大事件」とは!?
―GOING!さんはホームだけではなくアウェイ遠征もしていますよね?遠征ならではの苦労はありますか?
そうですね、スタジアムによってスタンドの作りが違うのでピッチとの距離や角度が変わってきます、それにいち早く適応しないといけません。一度訪れたスタジアムでも試合開始時刻や天候によって微妙に設定も変わってくるので、少なくとも試合開始前に見極めが必要です。これってかなりシビアですよね。
特にユースの試合やなでしこの試合だと夜でも最低限の照明しかないので撮影に苦労します。暗くなるほど写真がザラついた感じになるんですよね。これも辛いです。
あと、土地勘が少ない場所を動き回ると予想外の出来事に巻き込まれたりします。もうこればかりは避けようがないです。
―予想外の出来事というのはどんなことですか?
何年か前、清水に遠征した時が一番大変でした。IAIスタジアム日本平はメインスタンドとバックスタンドの一部しか屋根がなくて、その日は屋根のない席から試合を撮っていたんですけど、突然雨が降ってきて……。止むどころか豪雨になってカメラの中まで水びたし、ついには壊れてしまいました。
満足のいく撮影ができなかったこともショックでしたが、それよりも長く相棒を務めてくれていたカメラが壊れてしまったのは辛かったです。(屋根のある)ヨドコウ桜スタジアムならなんとかなったんですけどね。
あと、予想外の出来事ということで言えば、香川真司選手(2006年〜2010年までセレッソに在籍)がボルシア・ドルトムントに移籍した時にドイツまで観戦に行ったんですが、そっちのほうがインパクト強いかも知れません。
どうせなら練習も撮ろうと練習場でカメラを持っていると、突然、管理人みたいなおじさんがやってきて「こっちへ来い。」と建物の中に連れて行かれたんです。
―相手クラブのスパイだと思われたんでしょうか?
僕もそう思ってたので、正直生きた心地がしませんでした。そうして連れて行かれたのはドルトムントのプレスルーム。中には日本のテレビ局やスポーツ紙の人たちでギッシリすし詰めでした。
おじさんは「お前もプレスだろ?ここで作業しろよ。」という感じでさっさといなくなってしまって、ずいぶん肩身の狭い思いをしましたね(笑)
GOING!さんにとって「いい選手」「いい写真」とは?
―セレッソを撮り始めて今年で14年。そんなGOING!さんの推しは誰でしょう?
特別に誰が好きというのはないのですが、強いて言うなら清武弘嗣選手や柿谷曜一朗選手(現名古屋)ですね。技術がしっかりした選手はボールをトラップしてから次のプレーに移るまでがスムーズで、ファインダー越しにも美しいと感じるので撮っていても楽しいです。
試合を撮るときは特別「こんな写真を撮ろう」とか考えていなくて、どちらかというと直感的にシャッターを押すタイプなんですけど、そういうプレーを観るとつい撮影枚数が多くなってしまいますね。
―撮影枚数が増えると現像する時、大変ではないですか?
撮影枚数が多いということは、それだけワクワクするものが撮れたということなので気にしていません。どっちかと言うと楽しいですよ。帰宅して写真をパソコンに取り込んでLightroom(写真現像ソフト)で仕上げをするんですが、何度やっても飽きませんね。
試合開始の何時間か前にスタジアムに着いて色々な風景を撮る。試合前のウォームアップが1時間弱、試合が2時間、現像作業がだいたい3時間から4時間くらい。全部合わせると8時間から9時間くらいサッカーを味わっている計算になります。試合を最後まで、長く味わえるのは撮りサポの特権じゃないかなと思います。
ただ、日曜に試合があると次の日の仕事がかなりキツいです(汗)
若い撮りサポたちへのメッセージ
―撮りサポの元祖として若い撮りサポたちに伝えたいことはありますか?
いやいやいや(滝のような汗)そんなおこがましいことは言えませんよ。あえて言うことがあるとすれば、自分がいいと思った写真を撮り続けてほしいですね。
僕は僕なりの視点でいいと思えるものを残していますが、「いい写真」という基準は人それぞれだと思うんです。選手のカッコよさを追求する人もいれば、ちょっとした仕草の可愛さを撮りたいという人もいる。それを突き詰めていってほしいです。
個サポで撮りサポ、という人ならずっと推しの選手を撮れますよね。公式の写真はどの選手も平等にまんべんなく掲載されますけど、自分で撮るのであれば何百枚でも残せる、それっていいことですよ。
―機材が安くなったことで撮りサポの間口が広がったのも大きいですね。
確かにそうですね。僕の頃はカメラとレンズだけで25万くらいでしたが、今ではそれ以上の性能を持ったカメラやレンズがその頃の半額程度で揃えられますから、バイトを頑張れば若い人でも買えるようになりました。例えばNikonのZ 50 ダブルズームキットは13万弱、CanonのEOS Kiss X10i ダブルズームキットも同じ価格帯です。
コンパクトで軽いミラーレス機も少しずつ増えてきましたよね。女性でも持ち運びしやすく、いい写真が撮れるチャンスがグッと増えたのはいいことだと思います。
最近の入門機(初心者が手にしやすい価格帯のカメラ)は結構いい作りをしていますし、プロが使っているカメラにはついていない機能があるんですよ。
―例えばどんな機能でしょう?
一番いいなと思うのはBluetoothを使ってスマホと連動できる機能ですね。撮ってすぐに取り込んでSNSに投稿できるのはうらやましいです。僕のカメラはそんな機能がないので液晶画面を直接スマホのカメラで撮ってます。
画素数も入門機の方が多いので、昼間の試合だと僕よりもきめが細かい写真が撮れます。いい写真を撮ると、もっといいものが撮りたいという気持ちが湧いてくるもの。そんな向上心があればどんどんレベルアップできますよね。
―やっぱり試合を撮り続けることが大事なんですね。
習うより慣れよ、ということです。好きなカメラマンさんを見つけて、好みの作品の設定や撮り方を勉強するのもいいですね。
―なるほど、ちなみにGOING!さんおすすめのカメラマンさんは誰でしょうか?
実は僕、他のカメラマンさんの作品はあまり見ないんです。
―ダメじゃないですか!
あはは、申し訳ないです(笑)
これからのGOING!さん
―GOING!さんはこれからどんな写真を撮りたいですか?
うーん、やっぱり2017年のルヴァンカップのような、歴史に残る試合を撮り続けていきたいですね。セレッソがタイトルを獲り続けられればいいなと思います。
―ヨドコウ桜スタジアムの車いす席はグラウンドレベルですから、おじいさんになってもいい写真が撮れるかもしれないですね。
それはいいですね。ヨボヨボ、車いすなのにでっかいカメラ持って「防球ネットが邪魔だ!」とか言ったりして、最後までいい写真を撮り続けたいです(笑)
GOING!さん、素敵なお話をありがとうございました!
写真:GOING!さん / 取材:牧落連