おはよう、こんにちは、こんばんは、セレサポ.netライターの牧落連(まきおちれん)です。
サッカー選手として生きていこうとするなら、自らを高め続けていかないといけません。ライバルに勝ち、試合に出て、結果を残す。ステップアップのチャンスがあるのなら迷わずチャレンジする。プロならそれが当然です。
セレッソの右サイドを2年半支え続けてくれた毎熊晟矢選手も他の選手と同じように、自分自身を高めるため海外クラブへの移籍を決断をしました。
6月13日にはクラブからメディカルチェックのためチームを離れると公式のリリースがあり、今回レポートする浦和レッズ戦が「セレッソ大阪の」毎熊選手に会える最後の機会になりました。
マイク不在の「お別れの日」
その浦和戦のメンバーに毎熊選手の名前はありませんでした。
海外クラブとの交渉でメディカルチェックまで話が進んだということは「健康状態さえ異常なければ入団してほしい」ということ。そこまで来たのに試合に出て怪我なんてしたらすべてがダメになってしまう。当然といえば当然なのですが、個人的にどうしても切ない気持ちになりました。
一方で、セレッソの選手たちは燃えていました。仲間を勝利で送り出したいという気持ちがバシバシ伝わってきます。ゴール裏もテンションが高くて、セレッソのために戦う全員が集中力を保ったまま試合に入ることができたと思います。
後述しますが、ベンチに入った上門知樹選手の意気込みは相当だったでしょう。なにせ大親友の移籍ですからね。毎熊選手が代表初選出された際も、嬉しさと、先を越された悔しさのあとに「食事のときどうしよう?」と素直な感想がこぼれていました。
チームメイトになってからは夕ご飯はいつも一緒とのことで、それはさみしくなりますよね。
奇跡のような2ゴールで快勝!
さて、試合のレポートに入りましょう。浦和レッズとの試合はホームでもアウェイでも戦いづらい、難しいものになります。チーム自体もパワフルですし、ゴール裏には熱狂的なサポーターたちが集まっています。
この雰囲気に飲まれてチームとサポーターが萎縮してしまうとまず勝てない。ただこの日のセレッソはいい意味で相手チームのことを考える余裕がありませんでした。毎熊選手のために勝つ、自分たちのために勝つ、そのためだけに集中していました。
ボディコンタクトでバチバチやられても、長短のパスに振り回されても、ここやられたらゴール奪われる、そんなすんでのところで繰り出されるコンタクトやブロックがことごとく決まります。いつも言われる「あと一歩、もう一歩」がしっかり出ていました。
開幕から首位に立った頃にあったチームとして奪う、チームとして攻める姿からはかけ離れています。でも、この試合だけはこれでオーケーです。泥臭くてもかっこ悪くても防げればいい、ゴールを奪えたらいい。
前半42分のルーカス・フェルナンデス選手の直接フリーキックは目の覚めるような一撃でした。ゴールまで35メートルくらい、ゴール前の味方に合わせるのが定番ですがルーカス選手には浦和GK西川選手がいつもより前に出ているのが見えていました。それでも、あの距離をあの精度とスピードで蹴られるのはルーカス選手ならではでしたね。
そして後半立ち上がり、去年まで毎熊選手がつけていた背番号16をつけ、右サイドバックとして先発した奥田勇斗選手のスペシャルミドルで喉から手が出るほどほしかった追加点を奪います。これは動画で観てほしいです。
現地で観ましたが、最初なにが起こったのかさっぱりわかりませんでした。あの距離からシュート打って、低い弾道で、うなりを上げてゴールに吸い込まれるなんて「ありえない」。だからゴールだと気づくのが一瞬遅れたんですよね。それくらい特別なゴールでした。
上門知樹の献身
2-0になってから試合終了までの主人公は毎熊選手の親友、上門選手でした。彼の役割は相手を追い回してボールを下げさせること。上門選手のプレッシングは精度が高く運動量も素晴らしいものがあります。
加えてこの試合は大親友と同じチームで戦う最後の機会、気合いが入らないはずがない。相手を追い込むコースも、詰めるスピードも、いつもより正確で素早い。それを後半45分間休むことなく続けるんですから頭が下がります。
1失点はしてしまいましたが、とにかく勝ってよかった。
試合後のお別れセレモニー
ホームでは2ヶ月ぶりの勝利ということもあり、試合後もヨドコウ桜スタジアムは大盛りあがりでした。
スタジアムがピンクに染まる「サクラナイト」が終わると、ゴール裏やメイン、バックスタンドからは毎熊選手のチャントが始まります。
It’s Maikuma la la la la la la la la
駆け上がれセイヤ
la la la la la la la la It’s Maikuma
聞き慣れたチャントもしばらく歌えなくなるんだなと思うと少ししんみりしますね。このチャントに呼ばれるように毎熊選手がピッチに現れ、スタンドを一周します。
まだ移籍先も決まってなくて、演出は控えめ。これまで海をわたっていった選手たちと比べると若干地味なセレモニーですが、口数少なくストイックにプレーする毎熊選手らしくて、送り出す選手の様子もそのまま伝わって、こういうのでいいんだよと感じました。
古くから異国との交易が続く長崎で育ち、地元長崎でプロキャリアをスタートした毎熊晟矢という一艘の船はプレーのたびに成長を続け、セレッソ大阪にとって欠かせないものとなり、日本代表にもなくてはならない存在になりつつあります。
次の目的地がどこなのか現時点ではわかりませんが、実り多いものであることを願います。そしていつの日かより大きな存在となった彼が、大阪という母港に戻る日を楽しみにしています。
毎熊選手、それではよい航海を。
写真・文:牧落連